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積極的リハビリ治療 脳卒中上肢機能障害に有効なCI療法 兵庫医科大病院が先駆的に導入
記事:Japan Medicine
提供:じほう
【2007年6月4日】
脳卒中の上肢機能障害に対する積極的リハビリテーション治療として、「constraint induced movement therapy(CI療法)」が世界的に注目されている。すでにエビデンスは確立し、日本の「脳卒中治療ガイドライン」にも推奨度は「グレードA」に位置付けられている。先駆的にCI療法を導入している兵庫医科大病院では、すでに50例以上に施行して高い治療効果を上げている。
脳の可塑性に着目した治療法
脳卒中のリハビリテーション医療は近年、神経科学や脳科学の研究成果を取り入れて大きな進歩を遂げている。
その1つが脳の可塑性に着目したCI療法だ。海外では1980年代以降に臨床研究が行われ、急性期から慢性期に至るまで効果が確かめられている。
CI療法とは、片麻痺上肢の健側の運動を三角巾などで制限し、患側の運動を誘導する治療法。要するに、麻痺した手を集中的に訓練することで、機能改善やQOL向上を目指すもの。
治療メカニズムは、繰り返し強制的に患側上肢を使うことによって、運動を抑制するように条件付けられた学習現象「learned non-use(学習による不使用状態)」から脱却させることができるというものだ。
しかし日本の場合、「ほとんどのリハビリ病院では、健側による代償訓練が偏重されており、片麻痺上肢のリハビリは切り捨てられている状態が続いている。神経科学や脳科学など基礎研究の成果もリハビリ医療にまったくといっていいほど反映されていない」(道免和久・兵庫医科大リハビリテーション医学教室教授)。このため、日本でCI療法を導入している病院はごくわずかとなっている。
そうした中で、兵庫医科大病院では、神経科学などの進歩をリハビリ医療に積極的に臨床応用する方針を打ち出し、CI療法については2003年から本格導入している。
患者の心理的効果は絶大
同院では、海外の標準的なプロトコルを参考に、治療前後の機能評価期間を含め、合計3週間(治療自体は午前2時間・午後3時間の1日5時間の訓練を10日間実施)の入院プログラムを組んでCI療法を施行している。
同院が導入している適応基準・訓練内容は次面・資料の通り。重度の麻痺がある場合は改善が難しいため、適応外となる。道免氏によると、脳卒中患者の2割弱程度が適応になるという。
治療は基本的に自主訓練で、作業療法士が適宜指導する。患者にとっては麻痺した手を強制的に使わざるを得ないため、想像以上に過酷な訓練となる。しかし、患者本人の希望で治療に参加しているケースでは脱落例はほとんどみられない。
治療結果は、訓練内容のシェーピング項目に違いはあるものの、Wolf氏らの臨床研究とほぼ同等。他覚的評価では全例で改善を認め、治療から1年以上経過観察している症例でも、効果が維持されていることが確かめられている。
患者の自覚的満足度も高く、治療を受けた患者からは「両手で食事ができるようになった」「ほおづえがつけるようになった」「蛇口をひねられるようになった」「積極的な気持ちになった」「麻痺側を意識的に使うようにしている」「積極的に生きる望みが得られた」などの喜びの声が寄せられているという。
今年に入り、治療を希望する患者が全国から殺到していることから、関西リハビリテーション病院など、一部の周辺病院にもノウハウを提供し、患者を振り分けている。しかし、いずれの病院も入院は半年から1年待ち。このため兵庫医科大病院では、患者のニーズに応えるため、外来診療でCI療法導入を準備中だ。
上肢機能障害以外の臨床応用にも期待
CI療法の意義について道免氏は、「患者さんの立場に立てば、動かない手が少しでも動くようになることの意義は大きい。最近では、急性期リハビリで廃用症候群だけ防げばいい、自立さえすればいいという誤った考え方が広がっている。しかし、リハビリ医療はどんどん進歩しており、そんな考えはもう時代遅れだ。患者さんのQOL向上を考えると、CI療法などの新しい治療法はもっと普及させないといけない」と指摘する。
医業収入としては、診療報酬上、1日5時間の訓練は請求できないため、別途、個別にリラクゼーションやストレッチなどを実施し、1単位あるいは2単位だけ診療報酬を請求している。病院側にとっては経営的にあまりプラスにはならない。このため、「エビデンスの確立した治療法なので、将来は新たな診療報酬点数を付けてほしい」と道免氏は要望する。
CI療法の今後の可能性については、海外での臨床報告から、脳卒中の上肢機能障害以外に、脳外傷・脳性麻痺・局所性ジストニア・幻肢痛・失語症・脳卒中による下肢麻痺・脊椎損傷などへの応用拡大も期待できるとしている。